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刑事政策研究第二(特講流用)

最終更新日:2017年8月21日

授業科目名
刑事政策研究第二(特講流用)
履修コース
研・専
講義題目
少年事件の刑事裁判
授業区分
前期
担当教員
葛野 尋之
単位数
2単位
教 室
第3研究会室
科目区分
修士・博士課程
履修条件
授業の目的
授業の概要・授業計画
 日本の少年法はアメリカ法をモデルに制定された。アメリカ法も、多くの州において、少年事件の取扱いについて日本法と同様、少年審判・保護処分と刑事裁判・刑罰の「二元主義」をとっている。そのアメリカ法においては、日本にもまして、少年の刑事責任を問い、刑罰を科すために、少年事件を刑事裁判に付すことが積極的に行われている。たとえばニュー・ヨーク州においても、1978年少年犯罪者法のもと、16歳未満と上限年齢が低く設定されているにもかかわらず、重大犯罪が広範に、家裁の本来的管轄権から除外され、刑事裁判所の本来的管轄下におかれている。この法律は、アメリカ少年法の「厳罰化」という政治的・社会的趨勢を象徴するものであり、「アメリカで最も強圧的な少年犯罪対策立法」と評された(葛野尋之『少年司法の再構築』〔日本評論社、2003年〕第一部参照)。
 しかし、少年事件が広範囲にわたり刑事裁判に付されることにより、さまざまな深刻な問題も生じている。また、被告人が紛れもなく「少年」であり、扱うのが他でもない「少年事件」であることに起因して、刑事裁判ではあっても、裁判官の広範な手続裁量を通じて、成人事件とは異なる特別な手続がとられることもある。ニュー・ヨーク州においても、少年事件の量刑審理については、「少年部」という特別部において、プロベーション・オフィサーなども参加しつつ、高度にインフォーマルな手続によって、柔軟に進められている。
 他方、日本においても、少年事件の刑事裁判をめぐっては、手続面でも、実体的な書具決定の面でも、深刻な問題が指摘されてきたところであるが、それは、裁判員裁判の開始によって、ますます尖鋭化する様子をみせている。アメリカ法の経験とその教訓に学ぶことは、日本法における問題解決や、今後の日本法のあり方を考えるうえで、大いに参考になるであろう。
 このような問題意識に立って、この授業では、Aaron Kupchik, Judging Juveniles: Prosecuting Adolescents in Adult and Juvenile Courts, New York University Press, 2006を精読していきたいと思う。この研究は、少年事件を広範囲に刑事裁判所の管轄権に委ねているニュー・ヨーク州の少年事件の刑事裁判を、どのような重大事件であっても少年事件を少年裁判所で取り扱っている隣のニュー・ジャージ州の少年審判を、法的枠組みについてとともに、参与観察によりその運用について比較検討し、少年事件の刑事裁判の実務において生じる傾向、その問題点を明らかにしている。そのうえで、それらの法的・政策的含意、さらには少年に刑事責任を問うことの法的・政策的意味を検討している。この研究は、世界的に高い評価を博しているものであり、その研究方法の精密さ、理論的検討の深さからしても、先のような問題意識に照らして、まず一番に手に取るべき研究であろう。
授業の進め方
 参加者が、@Introduction、 ALaw and Context、BThe Process of Prosecuting Adolescents: How Formal?、CJudging Adolescents: What Matters?、DPunishment for Adolescents: What Do They Get and Why?、EChildren in an Adult World、FPutting the Genie Back in the Bottle: Lessons for Policy、の各章を分担し、その内容を報告してもらい。さほど長大な研究書ではないので、内容を性格にかつ深く理解するため、報告にあたっては、全訳を提出し、そのうえでその内容を各章につき1時間程度で報告できるよう、要約してもらう。ただし、B〜Cにおける参与観察による調査所見の引用部分、Dにおける統計分析の部分は割愛してよい。報告者の内容の要約的報告を踏まえて、内容理解を深めることを第一の目的としつつ、また、日本法の問題にも触れながら討論を進めたい。
 授業の進め方については、参加者と具体的に打合せをしたいので、できるだけ早く私に電子メールで連絡をとってほしい。メールアドレスは、事務室の方にお伝えしておく。
教科書及び参考図書等
 Aaron Kupchik, Judging Juveniles: Prosecuting Adolescents in Adult and Juvenile Courts, New York University Press, 2006.
 通信販売などを通じて、早めに入手しておいてほしい。
成績評価の方法・基準
出席、報告、討論への参加など、平常点評価。
その他(質問・相談方法等)
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